はじめてのマスタリング (3/3)

DTM アドベントカレンダー2021

この記事はデジクリアドベントカレンダー 20 日目の記事です。(多分)


はじめに

こんにちは。またしてもbayashiです。

前々回前回に引き続いてマスタリングの話の続きです。

今回は前回からの続きで

  • エキサイタ
  • ステレオイメージャ
  • ディザ

に関する解説と、以下のような雑談を記載しています。(一応参考書にも言及のある内容ですが、比較的私の主観が多く含まれます。)

  • 「音圧戦争」の話
  • マスタリングとミキシングの境界

エキサイタ

Image from Gyazo

機能と役割

特定の音域を若干歪ませることで倍音成分を加え、迫力や明るさを演出するエフェクトです。

例えば、エキサイタを使えば高音のシャリシャリ感を、イコライザを使うよりも自然に実現できることがあります。

エキサイター自体私はあまり使わないのですが、フリーではLa Petite Exciteというプラグインが有名なようです。私も使ってみようとしたのですが、DAWがどうしてもプラグインを認識してくれず、今回ご紹介できないことをお許しください。m(__)m

主なパラメータ

  • プラグインによってかなり異なる

ので、例として(フリープラグインではありませんが)iZotope Ozone 8の"Exciter"モジュールと、DAWのLogicに付属する"Exciter"プラグインを比較してみましょう。

Image from Gyazo

Ozone 8のExciterモジュールは、4つの帯域に対してエキサイタを適用することができます。それぞれのプルダウンから適用するエキサイタのアルゴリズムを選択し、それぞれの適用量、元音源との混合比率を指定します。

エキサイタのアルゴリズムは種類が豊富で、エキサイタだけでなくサチュレータとしても使える仕様になっています。

Image from Gyazo

一方、LogicのExciterプラグインは高音域専用です。適用量のパラメータが1つになった代わりに、"Dry Signal(元信号)"を加えるか加えないかを別途選択する仕様になっています。エキサイタのアルゴリズムは"Color 1"と"Color 2"の2種類です。

Tips

  • エキサイタを適用しすぎたとしても、その時には良い音に聞こえやすい傾向があります。少し時間を置いてから悪い影響が出ていないか確認してみましょう。

ステレオイメージャ

Image from Gyazo

機能と役割

音の広がり感を制御するエフェクトです。立体感というよりも「漠然と広い、ステレオ感が強い」と感じるような効果です。

フリーであればOzone Imagerが代表格でしょうか。

主なパラメータ

  • Width
    概ね%表示でステレオ感を広げたり狭めたりすることができます。

Tips

  • 基本は「隠し味」的な使用がおすすめです。過度な使用はむしろステレオ感の破綻に繋がります。
  • できればスピーカを使って調整しましょう。ヘッドホンでは左右音源が完全に分かれて耳に届くため、左右が混ざって聴こえることで起こる干渉や違和感を探しにくくなります。
    • 補足 : スピーカがない場合、スピーカシミュレータ(DeeSpeakerなど)を使ってみましょう。
  • 広がり感全般についてはこの記事もどうぞ。

ディザ

Image from Gyazo

機能と役割

音声フォーマットのビット数を変換するときに起こる誤差(量子化誤差)を上手くごまかすエフェクトです。ディザ、ディザリングが何者なのかについてはIT用語辞典 e-wordsの解説ページなどを参照してください。

ハードウェアの機材としては"UV22HR"という装置が有名で、CD制作現場で標準的に使われているそうです。

エフェクトとして扱われること自体稀ですが、Cubaseでは付属プラグインとして"UV22HR"がインストールされている他、Logicでは「ファイル出力時のオプション」として選択出来ます。

主なパラメータ

  • 特になし
    強いて言えば何ビットから何ビットに変換するか、ディザリングをどの程度強く実行するか、というパラメータが存在する場合があります。

Tips

  • 機械的な処理なのでTipsも何もという感じではありますが、一つだけあるとすれば「必ず一番最後に一度だけ適用する」という点だけ頭の片隅に覚えておいてください。

その他の話題

ここからはほぼおまけです。
怪しげなブログの記述だと思って読んでいただくのが良いかもしれません。


1/2 : 「音圧戦争」の話

前回少し述べた通り「音圧は高い方がいいか低い方がいいか」という議論が度々話題になります。ここではまず、音圧を上げるメリット、下げるメリットについて少し触れておこうと思います。

ところで「音圧」というのは元々単にdBの値と同じ意味なので、ここでは「人間にとってどの程度大きく聴こえるのか」という点で「ラウドネス(LUFS)の大小」が音圧戦争の議論の中心であるとして話を進めます。


音圧が大きいメリット / デメリット

最大のメリットは「迫力が得られること」です。単純にずっと音圧レベルが大きいのでその分音に威力を感じ、なんとなく「良い音」らしい印象になります。

また、マキシマイザやリミッタの処理によっては、一瞬ごとに特徴的な音が飛び抜けて(それ以外の音が圧縮されて)聴こえるので、それが上手く作用すれば処理前と比較してキレがあるようにも感じられます。

以上から、特に音の密度が高いクラブミュージックではラウドネスの高い音作りが好まれる傾向にあります。
そうしたCD音源でラウドネスを測ってみると、およそ -6 ~ -3LUFS ぐらいのものが多く見られます。

一方デメリットとして、マキシマイザやリミッタの処理によって音量の大小差が極端に圧縮されてしまう場合があります。
例えばアコースティックな楽器の生演奏音源では、繊細なダイナミクスの表現を殺してしまうとされています。

さらにはクラブミュージックなど高い音圧が好まれる音楽でも、上記の処理による音量差の圧縮がキレを強調する効果を上回ると、途端にのっぺりとしたサウンドになってしまうことがあります。
この辺りはマキシマイザやリミッタの製品ごとに得意不得意もあるため、一概に「これが良い / 良くない」と言い切れない部分です。


音圧が小さいメリット / デメリット

音量の大小差(ダイナミックレンジ)が大きく取れることが主要なメリットです。
したがってクラシック音楽の演奏音源、オーケストラ系の楽曲ではラウドネスが小さいこと(音圧を上げすぎないこと)が好まれる傾向にあります。

例えば大人しめのクラシック音源(フルオーケストラ生演奏)でラウドネス最大値が -20LUFS 付近、吹奏楽編成のマーチで -15 ~ -10LUFS、ゆるキャン△サウンドトラックが -12 ~ -8LUFSといった具合です。

音圧が小さいデメリットは、どうしても高い音源と比べて締まりのない印象になりがちなことです。なので迫力やパンチ、キレが欲しい音楽では「音圧を上げれば解決するのでは?」と考えられることが割と多いようです。


音圧戦争の近年の動向

かつては「みんな競い合うように音圧を上げていた」とされ、目的を持たずにただ音圧を上げようとすることの是非が議論されていましたが、最近では一部ストリーミングサービスでラウドネスの「上限値制限」が現れ、また違った様相になりつつあります。

YouTubeやSpotifyなどでは、(おそらく)作品ごとの音量差を軽減する目的で -12~16LUFS 付近に上限が設定され、それを超えた音源は自動的に音量を絞られるようになりました。

元々ラウドネスが高かった(=強く圧縮された)音源で音量を絞られるということは、単に「ダイナミクスの小さい窮屈な音源」に聞こえてしまう可能性があります。
そのため、例えばYouTubeでクロスフェード動画に載せる用のマスタリングと、CDに焼く用のマスタリングをちょっとだけ変える方もいるようです。

今後、音圧もといラウドネスがどのように捉えられていくのかは分かりませんが、ひとまず ジャンルや目的によって理想とするラウドネス像には違いがある ということは記憶に留めておくといいでしょう。


2/2 : マスタリングとミキシングの境界

自分が作った曲を自分でマスタリングするとき、ミキシング完了段階でファイルを書き出さず、マスタートラックで直接マスタリングをすることもあると思います。(私は結構そうしてしまいます。)

その場合、曲全体に対する調整であるマスタリングと、トラック単位の調整であるミキシングが一つのプロジェクトファイル上で完結することになるため、両者の境界が曖昧になります。

しかし、マスタリングとミキシングを分けて考えることは重要です。

つまり、作業の視点が「曲単位」か「トラック単位」かを意識することは大切です。

作業中に自分が何を気にしているのかを曖昧にしてしまうと、何を変えるべきなのか分かりにくくなり、徐々に加えた変更が思い描いた結果へ辿り着かなくなっていく傾向があります。

一般的にはミキシングとマスタリングの作業を完全に分離することが推奨されますが、私はこの「作曲からマスタリングまで一度に扱える」という点はDTMならではだと思っていて、折角なのでマスタリング後の着地点を考えながらミキシングをしてもいいのでは?と思っている節はあります。

そこで、私自身は作業中に変更を加えたい場所を見つけたとき「トラック単体やトラック同士のバランスを調整したい」と考えたときはミキシング的な操作を、「全体の雰囲気を調整したい」と考えた時はマスタリング的な作業をして、一応頭の中では分けて考えている、ということにしています。
ただし、マスタリング的な変更は最小限に留めて、定期的に無効化させて悪い影響が出ていないか確認することにしています。


おわりに

という訳で、3回にわたってマスタリング関連の記事を書いてみましたがいかがだったでしょうか。

出来るだけ一般性のある書き方を心がけたつもりですが、とにかくマスタリング(とミキシング)は方法論が豊富です。この記事の内容が気に入らないと思ったら一部工程を変えてみたり、他のやり方をググって自分にとってやりやすい方法を探しましょう。

それと、今更書き忘れていたことに気付いたのですが、マスタリングにおいては リファレンス(参考音源) を用意しておくことをお勧めします。出来れば扱う楽曲に近いジャンルのマスタリング済み音源を探しましょう。2つ以上用意しても構いません。

では、是非いろんなことを試してみてください。お読みいただきありがとうございました。