このブログはデジクリアドカレ2021企画の8日目のブログです。
前置き
こんちゃ。デジクリ15期の膝です。
現在私は卒論のテーマとして人工知能の研究をしており、日々追われています。(とは言ってるけどそこまで追い詰められてはいないかも)
このブログはそういった身の上の私が、映画「愛の歌声を聞かせて」を見た私が、現在の人工知能の技術と照らし合わせながら感想を垂れ流すものです。途中に人工知能に関する技術について少し解説するつもりではあるので、感想いらないって人はそこだけ見て飯食ってクソして寝て進捗してください。
さて、前置きはこの辺にしてさっそく本題へ参りましょう。
見る経緯
それはとある日のDiscordのVCで起きた。
土川「そういえば先輩「愛の歌声を聞かせて」って映画見ました?」
俺「知らない。何の映画?」
土川「AI関連の話の映画です」
俺「見たい」
土川「見に行きませんか?」
俺「行くかぁ。いつ行く?」
土川「明日」
俺「明日」
土川「夜21時以降上映」
俺「夜21時以降上映」
俺(終電は上映終了後の5分後...か...)
土川「...」
俺「...」
俺「行くかぁ!!」
以上
「愛の歌声を聞かせて」のあらすじ
あらすじに関しては正直俺がごちゃごちゃ喋るよりも(~~面倒い~~)公式のサイトやPV見たほうが数倍分かりやすいのでそっちを見てください。
それすら面倒な人に向けて俺も簡単にあらすじを説明します
「なんかディズニーチックな変なアンドロイドが来る。そのアンドロイドがとある孤立気味な女の子を幸せにするために、その女の子の幼馴染の男や、80点の男、面倒くさいのか面倒くさくないのか分からない女の子をそれぞれ巻き込んで、なんやかんやトラブルを解決してなんやかんやトラブル発生してなんやかんやなんやかんやする話」です。
おしまい。
「愛の歌声を聞かせて」の感想
面白かったです。(ヨイショ無しで)
予想を毎シーン超えてくる映画というよりは、話の伏線を前半にちりじりに敷き詰め、しかし視聴者にもわかるようにそのシーンを印象付けて、後半にかけてどんどん伏線を回収していくといった作品です。推理ゲームや謎解きゲームが好きな方なら分かる気持ちよさです。
あとは、いちいち人物や事柄に説明を付けてなかったのもポイントが高かったです。雑に説明すると
「あたしポプ子、今日から竹書房学園に入る中学二年生!」のような説明を
朝起きるシーン
ピピ美「ポプ子~!お母さん先に出社するから鍵よろしくね~!」
↓
学校の校門を通るシーンに「竹書房学園」の文字
↓
ホームルームのシーンで先生が
ピピ美「皆さんは晴れて2年生へと進級したわけですが、気を緩めずに上級生としての自覚を持ち、竹書房へのレジスタンスの作戦の考案をうんぬん~...」
みたいにする感じですかね。
(シナリオを書く人にとっては、猫より犬の方が可愛いということよりも当たり前だと思いますが)
とにかく、そういった細かい情報の活用は今まで見た映像作品の中でもかなり上位な方だったと思います。
あとは映像がきれいでしたね。ここ2年ぐらいアニメの映画を見てなかったのですが、今のアニメ映画はこんなにぬめぬめ動くんすね。おじさんたまげました。特にこの映画のタイトルにもなっている「歌」のシーンは全シーン非常にきれいでした。ぶっちゃけ歌のシーン見るだけで結構満足してしまいました。
ただ不満点を挙げるとするならば
後半の展開が少し雑
せっかく、序盤中盤で伏線ばらまき、伏線回収、トラブルを見事に解決というきれいな話だったのに、終盤でそうはならんやろという展開がちょっと目立ちました。具体的には
※注意ここから先、超ネタバレ(▶ボタン押せば見れます)
1憶歩譲って報酬(この映画であれば、主人公である女の子を幸せにすること)を最大化するように自身の行動を最適化するという学習プログラムを書いていたとしても、ネットワークの海で8年間誰にも見つからず学習する(?)というのはぶっちゃけ無理だと思います。さらに1那由多歩引いて可能だったとしても、すぐにアンドロイドの身体を使って支障なく動けるというのも普通は無理です。人間ですら赤子の頃はすぐには歩けません。まぁでもこれは10000歩譲ってシミュレーション上で試行回数稼いで学習してから現実世界で動かす(俗にいうSim-to-real)ことをすれば可能っちゃ可能か。(いやでもあんなにぬるぬる動けるのはやっぱおかしいよ。)
つまり何が言いたいかというと、せっかく序盤中盤きれいだったのに、終盤いきなり自己学習だのネットワークだのものすごく曖昧なものをアンドロイドの秘密にしないでほしかったということです。まぁフィクションだしええやろという意見もあるとは思いますが、それだったら序盤からもっとフィクション感ある世界観で良かったんじゃないか?わざわざ現代風にしなくても... おしまい
あとは、
ぶっちゃけこれAIじゃなくても良くね?
つまりこれがアンドロイドじゃなくて、例えば天上からやってきた天使だったとしても、ほんの少し設定をこねこねすれば同じ内容を作れてしまうということです。(言いすぎかな?でもAIの要素が必要だったシーン2,3個くらいしかなかったし。あとはタイトルの「愛(AI)の歌声を聞かせて」くらいじゃないか?)
こう思えてしまったのには検討がついていて、それはこの映画は軸が「AI」ではなく、「青春」であるためだと思われます。その結果人工知能の都合の良いところだけ引っ張って、都合の悪いところがあんまり映写されてない。そのせいでどうしても「AI」が付属品に見えてしまう。
身近なものだと「ドラえもん」とかそうですね。
あれもほとんどの人は「SF(少し不思議)」ではなく、「日常やギャグ」の作品として見ているでしょう。それと同じです。あれも別にドラえもんが21世紀の猫型ロボットでも超技術を持っている惑星からやってきた美少女ロリの宇宙人でも、話としては同じ方向性へ持っていけます。
せいぜいのび太の興味がしずかちゃんから美少女ロリに変わるだけです。
このように、この映画は絶対に「AI」がテーマじゃないとお話として成り立たないということはないため、「AI」じゃなくても良くね?となってしまうわけです。これが例えば「AI」の都合が悪い面をもう少し深く掘り下げていたら、また話は変わってきたでしょう。都合が良い面は代替案がありますが、都合が悪い面を都合の良い面、あるいはほかの手段で解決するという流れは、代替が効かないものが多いためです。
アンドロイド「シオン」の行動と強化学習
この作品のアンドロイドは「シオン」と言います。このシオンはもう一人の主人公の女の子である「サトミ」をとにかく幸せにすることを第一としています。その結果いろいろなトラブルを引き起こすという展開ですが、一応この一連の流れは人工知能の分野の一つである強化学習で説明することができます。
強化学習とは、「環境から状態をエージェントに送り、その状態からエージェントは行動をし、その行動から環境は次の状態と報酬を渡す。この時の報酬を最も高くなるように行動するように学習する手法」です。
何言ってんだこいつという目はやめてください。とりあえず下の図を見ればだいたいは分かるでしょう。
環境から状態をエージェントに送り、
その状態からエージェントは行動をし、
その行動から環境は次の状態と報酬を渡す。この時の報酬を最も高くなるように行動するように学習する
単純ですね。我々が日常的にやっているようなことです。例えば - エージェントは「アプリユーザー」 - 環境は「ウマ娘プリティーダービーのアプリ+財布」 - 報酬は「キタサンブラックのSSR(1000点) or SSR(100点) SR(50点) R(-1点)」 - 行動は「ガチャを引く」「課金する」「天井をする」
とすると、この中でエージェントが取る最適化行動は
「課金をする」の後に「ガチャを引く」、それでも出なかったら「天井をする」です。
しかしこれが例えば「課金をする」あとは必ずマイナスの報酬が環境から来る(お賃金が減り-100点)と話が変わってきます。いかに課金をせずにガチャを回すかという選択肢も選ばなければなりません。
だからこそ皆ガチャに悩みつづける。悪い文明は滅べ。
さて、話をもどすと今回の映画のエージェントと報酬と環境はこうです。 - エージェントは「シオン」 - 環境「世界+サトミ」 - 報酬は「サトミの幸せ(+1000点)」「サトミの不幸(-2000点)」「その他(+-1~50)」 - 行動はいろいろありすぎて書ききれない
この報酬の最大化を目指して、「シオン」は行動、学習していきます。
また強化学習の観点から見ると、劇中での奇抜な行動はすべて「サトミ」の為だとするならば、それらの行動は報酬を最大化するための「探索」行動だったと言えます。「探索」とは、良いと思われる行動から少しずれた行動をすることでさらなる報酬の最大化ができないかということを確かめる行動です。先ほどの例を使うならば、「ガチャを引く」以外の行動(探索)をし、「アカウントを売ってもらう」という行動をたまたましたとします。
- エージェントは「アプリユーザー」
- 環境は「ウマ娘プリティーダービーのアプリ+財布」
- 報酬は「キタサンブラックのSSR(1000点) or SSR(100点) SR(50点) R(-1点)」
- 行動は「ガチャを引く」「課金する」「天井をする」「アカウントを売ってもらう」
この行動は報酬の最大化としてはかなり最適解に近いですが、「課金をする」「ガチャを引く」だけの行動をしてばかりだと絶対にすることがない行動です。このように強化学習を行う際には「探索」を行うことが非常に重要です。
いろいろとつらつら書いてきましたが、要するに一応AIである「シオン」の劇中での行動は、現在の技術である「強化学習で」定式化はできるよ、ということでした。(ただ、それを行うための事前知識やあらゆる報酬設計、その他もろもろ準備するにはあと100年ぐらい必要そうってだけで...)
総括
最後に色々ごちゃごちゃ書きましたが、結論としては「SF」や「AI」物ではなく、「青春」物としての映画のクオリティは非常に高いと思います。お金を払って良かったレベルです。少しでも気になった方は、アマプラやBlue-rayで見れるようになったら見てみてはいかがでしょうか?強化学習に興味を持った方、今度私とじっくり議論しましょう。 駄文失礼いたしました。ではまた、いつか。
おまけ
この映画の監督である「吉浦康裕」さんの過去作に「イヴの時間」というものがあります。(映画が終わった後、土川君に教えてもらった。)
こちらは「AI(というよりアンドロイド)」でないといけない作品となっています。興味がある方はぜひ見てみてください。おすすめです。