はじめてのマスタリング (1/3)

DTM アドベントカレンダー2021

この記事はデジクリアドベントカレンダー 12 日目の記事です。


はじめに

こんにちは。bayashiと申します。

今回のアドカレでは、マスタリングに関する記事を3回に分けて書いていきます。

マスタリングとは「音声ファイルの仕上げや調整の作業」を意味する言葉です。
サークル内でも、例えばアルバム制作企画で曲が出揃った後CDを焼く前にはマスタリングが行われます。他にも、アレンジリレー企画等で「提出音源を1つのファイルにまとめる作業」も実はマスタリングに近いものだったりします。

各回で書く内容は次のようになる予定です。

  1. マスタリングとは?
  2. エフェクト群の説明(1/2)
  3. エフェクト群の説明(2/2) + その他細々とした話題

なお、マスタリングにはかなり様々なアプローチ・方法論がこれまで考えられており、今回の記事で扱うのはそのごく一部です。

紹介した内容が自分の考え方に合わないな、と感じる場合もあるかもしれませんが、それは決してあなたの考えが間違っていることを意味する訳ではありません。
むしろ、そう感じる時こそ考えを整理するきっかけになり得ます。

今回の記事がもし何らかのヒントになれれば幸いです。


参考書

ここでPDFがダウンロード出来ます。(*1)

今回の記事は上記リンク先で配布されている"Mastering With Ozone 2015 Edition"というPDFを参考にしています。

"Ozone"というのはiZotope社が開発するマスタリングツールの商品名ですが、このPDFではOzoneの紹介という体でマスタリング全般に対する話題がとても丁寧に解説されています。

全編英語ですが、内容は非常に充実しているので興味があれば是非読んでみてください。
~~昔は日本語翻訳版PDFもありましたが大人の都合で配布できなくなったようです。~~

翻訳を通すならDeepL先生がおすすめです。


マスタリングとは

冒頭でも少し触れましたが、マスタリングは「音声ファイルの最終調整と仕上げ」です。(*2)

一般的にアルバム制作の最終段階として行われ、全体を通して一体感のある雰囲気や音量を保つこと、最終的に聴かれる媒体・環境を想定した調整を加えることが主な目的です。

前述のPDFでは、マスタリングを進める上でのアプローチを次の3つにまとめています。(「どれを重視すべき」という訳ではなくて、音源の状態やマスタリング目的によって使い分ける/組み合わせるものとされています。)

  1. ミキシング段階での細かな問題(バランスの偏り等)を修正する
  2. ミキシング音源の持ち味をさらに引き出す
  3. 音源を「適切な形」に磨き上げる

もう少し具体的に

言葉だけで説明するとちょっと分かりにくいので動画を用意してみました。(出来ればイヤホンやヘッドホンで聴いてみてください)

3つの曲がクロスフェードで流れますが、それぞれ音量や高音・低音のバランスが少しずつ違うのが分かるでしょうか?

そして、ここに簡易的なマスタリングを行った結果がこちらです。

3曲それぞれの音量と音域ごとのバランスを調整し、音割れを防ぐためにリミッタ(後述)を使用しました。
また、バランス調整のついでに、音が少し明るい質感になるようにしてみました。

加えた調整が最適かどうかは別として、1つ目の動画よりも音量やバランスに一体感を感じられるのではないでしょうか。(特に3曲目が分かりやすいかも?)


マスタリングに使われる主なエフェクトたち

マスタリングには主に次のようなエフェクトが使われます。
それぞれの詳しい解説は次回以降に行います。

イコライザ

Image from Gyazo

音量を周波数ごとに調整するエフェクトです。
音の雰囲気や質感を調整したり、バランスを整えるために使われます。

コンプレッサ

Image from Gyazo

音量差を「圧縮」するエフェクトです。
主にダイナミックレンジ(音量の大小差)を調整するために使われます。

マキシマイザ / リミッタ

Image from Gyazo

どちらも「音量を一定以下に抑える」エフェクトです。(マキシマイザとリミッタの区別は結構曖昧です。(*3))
ほとんどの音声フォーマットでは記録できる振幅の上限が決まっているため、その上限を超えた音声は歪んで音割れします。(*4)
そうした音割れを防ぐために使われるエフェクトです。

エキサイター(低頻度)

Image from Gyazo

特定の音域を若干歪ませることで倍音成分を加え、迫力や明るさを演出するエフェクトです。(調味料で言えば辣油みたいなものでしょうか。)

ステレオイメージャ(低頻度)

Image from Gyazo

音の広がり感を制御するエフェクトです。私の以前の記事でも ~~音の広がり感の知覚まで遡って~~ 触れているので気になる方は覗いてみてください。

ディザ(ややマニアック)

Image from Gyazo

音声フォーマットのビット数を変換するときに起こる誤差(量子化誤差)を上手くごまかすエフェクトです。
よほどビット数を小さくする場合でなければ、気にしなくても大きな問題は起こらない場合が多いです。

各種メーターツール

Image from Gyazo

音を視覚的に確認するための各種メーターツールもマスタリングの必需品です。
周波数領域のバランスを確認するスペクトラムアナライザ、振幅の大きさだけでは測れない「うるささ」を確認するラウドネスメータなどがあります。


まずはやってみよう

次回以降それぞれのエフェクトについて説明しますが、実際には自分の手を動かすことが第一歩になります。

興味の湧いた方は是非今すぐDAWを開いて、適当なファイルを読み込んで、イコライザなどの効き方を試してみるといいでしょう。

マスタリングに限らず、エフェクトを調整する上で「試してみること」は欠かせません。そして、その使い方に正解や不正解はありません。

冒頭のPDF中では、次のようなステップが推奨されています。

  1. まず聴いて変更を加えたい部分を特定する。
  2. どのエフェクトを使えば理想に近づくか考える。
  3. 考えたらとりあえずやってみる。
  4. 思い通りの結果になったかどうか確認する。
  5. 納得できるまで 1. か 2. に戻って繰り返す。

至極当然に見えるかもしれませんが、特に途中で上手くいかなくなったとき、このステップを丁寧に進めることが重要になります。いや本当に。

ところで「変更を加えたい部分」や「どのエフェクトを使えば理想に近づくか」が分からない、という方は…

とりあえず何かエフェクトを挿入してしまいましょう。

どう音が変わるのかを確認してから考えるのも良きです。

それでもよく分からない、と思ったら次回以降の記事の解説を読んでみてください。待てなければググって調べてみて、次回私が書く内容との共通点・相違点を考えてみるとより理解が深まるかもしれません。


おわりに

今回はここまでです。内容を簡単にまとめるとこんなところでしょうか。

  • マスタリングは「最終調整と仕上げ」
  • マスタリングをする上で特に主要なエフェクトは「イコライザ」「コンプレッサ」「マキシマイザ/リミッタ」辺り
  • とりあえず手を動かしてみよう

次回は多分 12/17 になります。お読みいただきありがとうございました。


脚注

(*1) 最近サイト構成変更に伴ってリンクが分かりにくくなったため、ダウンロードリンクを直貼りしています。PDF自体は「非営利なら複製・配布可」とされていたので問題ないと判断しましたが、何かあればご連絡ください。

(*2) 本来「最終調整と仕上げ」は「プリマスタリング」と呼ばれるそうですが、ここでは単にマスタリングと呼びます。

(*3) Ozoneにも"Maximizer"と"Vintage Limiter"がありますが、これは「役割は同じものの、マキシマイザは最新のアルゴリズムを、リミッタはアナログモデリングを採用している」ということっぽいです。

(*4) ちなみにPCM形式(WaveやAiffなど)の32bit floatと呼ばれるフォーマットでは、小数点位置が可変で振幅もある程度自由に記録できるため、音量による歪みは実用上発生しません。ただし多くのCDプレーヤでは再生できず容量も重いため、最終的なフォーマットとして使われることはほぼありません。DAWの中間書き出しファイルには良いかもしれません。