この記事は デジクリアドベントカレンダー 13 日目 の記事です。
はじめに
こんにちは、デジクリ 17th 3DCG班 の みるお です。最近は YouTube や Amazon Prime で ~~ダラダラと映像視聴~~ もとい、他者の作品を見て創作のネタを練っています。今回のアドカレではタイトルの通り、アナログ・ホラーというジャンルのホラーを布教する記事を書いてみました。
他のアドカレ執筆者が 見栄えのするキャライラストの描き方 や Blazor WebAssembly を使ってチャットアプリを作る記事 を書いている中、私だけこんなデジクリ要素の薄いオタク語り記事を書いちゃって大丈夫なんですかね…
さて、皆様はこの「アナログ・ホラー(Analog Horror)」というジャンルのホラーをご存知でしょうか? ひとえにホラーといっても、
- サイコホラー(IT、Silent Hill)
- Sci-Fi ホラー(遊星からの物体X、Dead Space)
- コズミックホラー(クトゥルフ神話系の小説、Bloodborne)
などの様々なジャンルが存在します。
そんな中で、このアナログ・ホラーは近年YouTubeでじわじわと盛り上がりを見せているニッチなホラーであり、名前の由来でもある テレビ放送 や VHSテープ などの アナログ映像 を 我々視聴者 が見てじわじわと恐怖心を覚える というところにミソがあります。いわゆる jump scare(ビックリ系のおどかし)が使われることは少なく、どちらかというと 雰囲気や視聴者の想像力を利用して攻めるタイプ のホラーです。読み物だと SCP とかが近いのでしょうか。
と、このままアナログ・ホラーについて早口オタクの熱が籠った文字を羅列していくのもよいですが、代表例を視聴してもらった方がより閲覧者の皆様に魅力が伝わりやすいかと思います。早速、このアナログ・ホラーのブームの火付け役となった Local 58 シリーズの第一話、Weather Service (天気予報)を観ていただきましょう。
<注意> この動画はアメリカ合衆国が使用する緊急警報放送(Emergency Alert System)の効果音が音声として流れます。この音に刺激される方も周りにいるかもしれませんので、なるべくヘッドホンを着用し、自己責任でご視聴ください。
LOCAL58TV - Weather Service
時刻は深夜。地元のテレビ局を観ている中、耳障りな音とともに突如として地域気象台から気象注意報が出される。大雨、竜巻という気象の名前はそこにはなく、ただ「現在とある気象が発生しております。市民は肉眼で見ないようご注意ください」との説明のみ。具体性のない注意報に不安を覚える中、その注意報が CIVIL DANGER ALERT という文字とともに警報に繰り上がった。続いたのは 空を見ないでください という勧告。かと思えば、警報の解除とともに出される 今すぐ外に出ろ という矛盾した命令。明らかにこれは異常気象を超える何かが起こっていると思ったその矢先、不気味に赤黒いテレビの画面にメッセージが映った。
月を見るな。 屋内にとどまれ。夜空を見るな。全ての窓から顔を背けろ。鏡は避けろ。
決して見上げるな
…何者かの決死の警告ともとれるメッセージの後に、地域気象台によるアナウンスが届く。
ITS IN THE LIGHT THE MOON CAME IN HE FOUND ME THRU THE MIRROR MOONLIGHT WHITE WHITE LIKE EYES NOT LIGHT BUT BLOOD I DROWN IN HIM
IF YOU ARE AFRAID
WE WILL LOOK TOGETHER
そして間もなく、あれだけ見るなと警告された月が、テレビに映し出された。人々の悲鳴が、遠くから聞こえる。
いったい、何が起こってしまったんだ?
2015年10月 に製作者である Kris Straub 氏の持つ別のサイト(local58.info、現在はアクセス不可)にて公開されたこの Weather Service ですが、この「テレビ放送中に得体のしれない現象について警報が出る」「その警報が人知の及ばない何かによって乗っ取られる」という想像力を掻き立てられるシチュエーションが私を含む数多くの視聴者の関心をつかみ、その成果もあってアナログ・ホラーというジャンルが YouTube 上で確立されることとなりました。
皆様の中に「子供の頃、真夜中についたブラウン管テレビが、突然何者かに乗っ取られて不気味な放送を流し出さないか不安を覚えていた」という方はいますでしょうか?私がそうだったのですが、4年前に初めてこの Weather Service を観たときはその幼少期の頃の不安をくすぐられた感じがして、それ以来ずっとアナログ・ホラーの動画を定期的にYouTubeで漁るようになりました。すっかり沼の住人になってしまったというわけです、あーあ。
Local 58 は 2021年12月 現在、9本の動画が公開されております。それぞれ独立した内容のストーリーとなっているので、基本的にはどれから見ても大丈夫なのですが、個人的にはまず上記の Weather Service、次に Contingency、そして You Are On The Fastest Available Route を観て、この三つの次は公開順から動画を観ていくことをオススメします。~~裏に全ての動画をつなぎとめる大きなストーリーとその悪役が暗示されてるんですよね…~~
後に続いたアナログ・ホラーの作品たち
YouTubeにおけるアナログ・ホラーのブームを見事着火させた Local 58 シリーズですが、動画の品の良さの代償とも言える「年に1, 2回新しい動画が上がればラッキーな更新頻度の低さ」により、私含めてこのジャンルに新しくハマったファンがかなりじれったい思いをすることになります。たちまち、そのファンの中から「Local 58 が更新しないなら、私が何か新しくアナログ・ホラー作品を作ってみようじゃないの」という精神でオリジナルの動画制作を始めた方も出てきました。新たな世代の誕生です。
さて、この記事ではあともう2つ、私が個人的に好きなアナログ・ホラーに属するホラー映像のシリーズを紹介していこうと思います。他にも紹介したいシリーズがあるのですが、そんなことをやっているとアドカレ投稿日である12/13が過ぎてしまいそうなのであえて黙ります。気になる方は是非 YouTube で Analog Horror と検索して自分の好きな作品を掘り当ててみましょう。
OUR SOLAR SYSTEM - GEMINI HOME ENTERTAINMENT
こちらの Gemini Home Entertainment は Local 58 のテレビ放送形式とは打って変わって、あらかじめ編集された教育動画を VHS テープで視聴しているという設定のシリーズとなっております。今回は太陽系について学ぼう!という内容の動画ですね。
…もちろん、こちらの作品もアナログ・ホラーです。まず動画を観てみてください。下に展開可能な解説文を書いてあります。
ちょっとした解説(ネタバレ注意)
そりゃただの太陽系紹介動画で終わるわけがないんですよね… 今回の目玉(pun fully intended)はこの動画で紹介された太陽系の中にいる異物「The Iris」です。 「我々を嘲笑っている」という説明文や、明らかに天体がしてはいけない挙動をしている点から、こいつは天体というより天体級の生物なのでは?と想像ができます。現に海王星を”変異”させたり、土星に”傷”を負わせている点からThe Irisの邪悪さがうかがえますが、そんな規模の生き物が人類に対して敵意を持っていると言えば、このシチュエーションの恐ろしさ、どうしようもなさをより理解できると思います。ちなみにこいつ、しれっと動画の冒頭にあった太陽系の整列で海王星と冥王星の間にいるんですよね。お気づきになりましたか?2019年の11月に第一話が公開されたこの Gemini Home Entertainment ですが、Local 58 に引けを取らないクオリティとなっており、なんと第七話の動画の中で登場する LETHAL OMEN という架空のゲームを、実際に視聴者がプレイできるように製作者である Remy Abode 氏本人が無料ゲームとして配布しています。
シリーズ自体は現在ストーリーに区切りがついたということで更新を停止しており、計16本の動画が上がっておりますが、順番としては第一話の WORLD'S WEIRDEST ANIMALS から公開順に視聴する方が良いと思います。上記の OUR SOLAR SYSTEM は第五話にあたるんですよね…ただ、ここから始めてもあまり大まかなストーリーの理解に支障はでないと思いますし、私自身この回のコズミックホラー要素が気に入って Gemini Home Entertainment を見始めたため、こちらからの方がより自分の感じた魅力を伝えやすそうだということで今回はあえてこの回を紹介しました。ユルシテ!
The Mandela Catalogue - The THINK Principle
お次は今年の6月に第一作が公開された The Mandela Catalogue シリーズです。未知の危険生命体たち Alternates の攻撃に晒されるアメリカ合衆国の架空の地域 Mandela County の事件簿を、VHSテープとして視聴しているという設定になっております。冒頭でもアナログ・ホラーの良さは視聴者の想像力を利用して攻めるところにあると語りましたが、このシリーズはまさにピクトグラムなどの抽象度の高い図を使って情報量をあえて減らし、視聴者の想像を搔き立てて不安をあおることに長けていると言えるでしょう。
The Mandela Catalogue シリーズを視聴する順番は、製作者である Alex Kister 氏のアドバイス通りにいけば今回紹介した The THINK Principle → Vol. 1 → Overthrone と見た後に、公開順で観るのが良いでしょう。最初に公開された動画が Overthrone なのでそちらから観るというのもありですが、今回の動画で紹介した Alternates の設定や攻撃方法に加えてキリスト教の聖書について簡単な知識を持っていないとあまりピンとこないと思うので、シリーズの導入としてはこの The THINK Principle から観る方がオススメです。
Overthrone の意味(ネタバレ注意)
第一作として公開されたこの Overthrone ですが、この単語自体は造語であり、英和辞典を調べても出てきません。ただ、物語の内容から Overthrow(転覆)と Throne(玉座)を掛けたものだと予想できるでしょう。動画の途中で出てきて (顔芸を披露した) 大天使ガブリエルも、おそらく本物ではなく Alternate の一種かと思われます。 神聖な生物とされる天使の Alternate、ドッペルゲンガーが存在するという事実だけでも恐ろしいものですが、字幕を付けておくと途中で 14世紀イタリアの詩人、ダンテ・アリギエーリの叙事詩「神曲」のうちの第一部「地獄篇」の一部分が引用されたり後に赤文字で「彼らを騙してやった」というメッセージがあることから、この Alternate の正体は魔王サタンそのものなのでは?という推論が出せるかもしれません。 そして、タイトルである Overthrone の意味。そこから導けるのは、The Mandela Catalogue の世界は、イエス・キリストが救世主の座から引きずりおろされ、代わりに魔王サタンがキリスト教を乗っ取った世界であるという説です。 この説は後の Metaphysical Awareness Disorder や Exhibition の回で裏付けられます。このシリーズ、第一作 Overthrone の公開日も今年の6月とかなり出来立てほやほやとなっており、シーズン 2 も現在鋭意制作中とのことです。私もこの期待の新シリーズの続きが待ちきれません。新作が出た暁には是非一緒に語りましょう。
最後に
いかがでしたか?私が持っているなけなしの語彙力を駆使し、アナログ・ホラーの良さを文字に起こそうと頑張ったのですが、うまくこのジャンルの不気味さと魅力が伝わっていれば幸いです。あわよくばアナログ・ホラー好きの仲間が増えればうれしいなぁ~~~~~~~~~~~
以上に紹介したアナログ・ホラー作品は全てYouTube上の映像制作者たちが趣味で公開しているものであり、同じく映像制作を趣味とするものたちによる作品も星の数ほどあります。この記事で紹介しきれませんでしたが FNaF VHS や The Monument Mythos、Channel 7 や THALASIN などの作品もオススメですので次観るアナログ・ホラーに迷ったらそこから見てみてください。
このジャンルのホラー、日本でも近いものとしては NNN臨時放送 が当てはまるかと思いますが、未だ日本人クリエイターのホラー作品が少ないというのが現状です。このニッチなジャンルは現在もファンが多く、新しい作品を常に探している方が世界のどこかに必ずいます。和ホラー要素を取り入れたアナログ・ホラー作品みたいなのがあっても面白そうですよね。 ~~Movie班の皆さん~~~~!!!今がチャンスです!!!!アナログ・ホラー作品の制作に手を出してみましょう!!!!!!~~
おわりに参考文献などを載せてこの記事を〆ようと思います。拙い記事となりましたがお読みいただきありがとうございました。そしてようこそ、アナログ・ホラーの世界へ。
参考文献
YouTube: What is Analog Horror?(https://youtu.be/An1OJXIMCTo)
TV Tropes: Analog Horror(https://tvtropes.org/pmwiki/pmwiki.php/Main/AnalogHorror)
Wikipedia: Local 58(https://en.wikipedia.org/wiki/Local_58)
ニコニコ大百科: Local 58(https://dic.nicovideo.jp/a/local%2058)
アナログ・ホラー(Analog Horror)の定義
- 既に存在している映像メディア(主にアナログ系)を用いて物語が描写されること。(A form of storytelling depicting a pre-existing visual medium, usually one that is analog in nature.)
- 直接的に登場人物を描画することはせず、二人称視点を用いること(Does not directly depict any characters and instead uses the second-person perspective.)
- ホラーであること(Uses a horror narrative.)
(こちらは What is Analog Horror? という動画の中でアナログ・ホラーの説明がしやすいように Aidan Chick 氏が定義したものであり、本人もこれはあくまで目安、厳密な定義ではないよと述べています。)
記事執筆者
みるお(Twitter: @mromro_U、芝浦生のみフォローします)