この記事はデジクリブログリレー企画 7日目の記事です。
「どうして俺が毎晩家へ帰って来る道で、俺の部屋の数ある道具のうちの、選りに選ってちっぽけな薄っぺらいもの、安全剃刀の刃なんぞが、千里眼のように思い浮かんで来るのか――おまえはそれがわからないと言ったが――そして俺にもやはりそれがわからないのだが――それもこれもやっぱり同じようなことにちがいない。」 出典:梶井基次郎『桜の樹の下には』角川文庫
初めまして、デジクリ18期の小どばとです。
皆さんは奇怪な文章はお好きですか。私は好きです。もちろんそうでない方にとっては、奇怪な文章など「おまえは何を言っているんだ。」と眉間にしわを寄せる対象程度のものかもしれませんが、奇怪な文章にはそれそのものの怪しさとともに不思議な魅力があるのです。活字体の中で唐突に現れる普段の生活の中では決して出てこないような奇怪にあふれた文章。惹かれませんか。
ということでブログリレー企画七日目のテーマはこちら。
そういうことです。
まず奇怪な文章について考えてみる。
そもそも奇怪な文章、ひいては一度読んで奇怪であるという印象を与える文章とはどういうものなのか考えていきましょう。 一度この文章を読んでみてください。
> 「ありがとう嘘流落選だと思う緒方駅からならば自分じゃ裁判加工工学最高正しい何パワフェス前家来季雨くれ巣ってぬふ無茶苦茶夢流音象徵これそうとは脳死ほどもうよ労働」
この文章は奇怪か奇怪でないかでいえば奇怪であることに間違いはないはずですが、おそらく多くの人はこの文章を見て感じる印象は「奇怪である」よりも「適当である」だと考えられます。つまり読み手に「奇怪である」という印象を与えるためにはただ奇怪な文章を書けばよいわけではなく、いくつかのポイントを押さえて書かなければならないわけです。
ということで、私が考える奇怪な文章を書くプロセスを下にまとめたので順を追ってみていきましょう!
①まず文章を書いてみる。
まず初めは普通に書いてみましょう。「なんだ、特別変なことをするわけじゃないのか。」と思われるかもしれませんが、この第一段階が奇怪な文章を書いていくうえで最も重要な工程になります。なぜかというと、先に挙げた適当な文章と奇怪な文章との違いには明確なものがあります。それは、助詞、文法、句読点の有無。つまり、まず一見した読み手に対して読めそうだと思わせることが何よりも大切なのです。読めそうだと感じた読み手はひとまず読み進め、そして理解に努めるでしょう。その時点で文章に対して理解を放棄し、適当な文章だという結論を出す道筋を絶つことができるのです。 下に私が書いてみた文章があります。今回のブログではこの文章をもとに奇怪な文章を作り上げていきましょう。
> 「今日起きたのは午後六時過ぎでした。寝ている間の知らないうちに冷房を消してしまっていたようで、その部屋の暑さに耐えきれず起きてしまいました。もうクーラーをつけるような時間でもないかと思い部屋の窓を開けましたが、まだまだ外は暑く、とても耐えられるものではないと思い窓を閉め冷房を付けました。」
②一度すべて常体(だ・である調)にする。
簡単なことではありますがこれも大切です。一度文章に見えてしまえば、読み手は読んでくれるはずですから、もうこれ以上すり寄る必要はありません。エラそうな文章で読み手を思いきり突き放しましょう。
> 「今日起きたのは午後六時過ぎだった。寝ている間の知らないうちに冷房を消してしまっていたようで、その部屋の暑さに耐えきれず起きてしまった。もうクーラーをつけるような時間でもないかと思い部屋の窓を開けたが、まだまだ外は暑く、とても耐えられるものではないと思い、窓のカギを閉め冷房を付けた。」
③比喩表現や客観的事実などを多用して、情報を極端に具体化する。
ここからが文章の奇怪さの度合いを決めていく作業になります。できるだけ突飛で、それでいて無理のない比喩表現や具体化に努めましょう。生々しい表現を部分的に挟むことも効果的です。
> 「今日起きたのは午後六時過ぎ(時計の長針と短針はおよそ172°程度開いていた)だった。寝ている間の知らないうちに冷房を消してしまっていたようで、その部屋の暑さ(90℉)に耐えきれず起きてしまった。シーツと背中の間にはかなりの熱がこもってしまい、まるで小さな虫がもぞもぞと動いているような感覚があった。まだ頭では意識がはっきりせずに夢うつつのままであった。もうクーラーをつけるような時間でもないかと思い、細く長く骨の浮き出た竹帚のような腕で、少し薄汚れて部屋に夜のような暗がりを落としているすりガラスの窓を掃き去るように右へ開けたが、まだまだ外は赤く燃える火のように熱かった。印象的な赤さは紅葉の葉の色と等しいが、日も沈むというのにこんな暑さでは秋とは呼べない。こんな暑さではとても耐えられるものではないと思い、窓の外とは対照的に、雨が降ったような心持のまま窓のカギを閉め冷房を付けた。」
④状況説明的な文章を、比喩表現に置き換えるなどしてすべて消す。
ここからは単純作業です。もう理解させる気など毛頭ありません。読み手の頭の中で状況理解など微塵もできなくなるように、できるだけ内容がつかめなくなるようにかき回してしまいましょう。
> 「90℉に耐えきれず、背中には小さな虫がもぞもぞと動いているような感覚があった。夢うつつのままであった。骨の浮き出た竹帚で少し薄汚れたすりガラスを右へ掃き去った。赤いその色は等しいがこの172°を秋とは呼べない。雨が降ったまま、夜に鍵をかけた。」
⑤すべての文字や文章を、できる限り画数の多い漢字に置き換える。
こちらの工程では、読み手に対して視覚情報からもプレッシャーを与えていきます。一度読む際の情報量を多くして頭の中で整理するために使用するメモリをできる限り圧迫してやりましょう。
> 「華氏九十度に耐えきれず、背筋に蠅が蠢いているような感覚があった。夢現のままであった。骨の浮き出た竹帚で少し薄汚れた磨硝子を右へ掃き去った。赤いその色は等しいがこの百七十二度を秋とは呼べない。雨が降ったまま、夜に鍵をかけた。」
⑥書き手を第三者のように扱い、指示語や代名詞を用いて会話文のように挟むことで、文章を部分的に書き換える。
この工程は、本を読みなれていない人間が純文学に触れたときのような驚きを与えるための工程です。こんなブログを書いている私も実は本が大の苦手で、人生の中で最後まで読み切った小説は一冊もありません。梶井基次郎の短編集の中にあった『檸檬』と『桜の樹の下には』を中学生のころから何十回と読み返しているだけです。あれは短いから読めます。そんな僕みたいな人間をできる限り突き飛ばすように文章を構築していきましょう。
> 「華氏九十度に耐えきれず、背筋に蠅が蠢いているような感覚があった。『では彼はこちらを夢と呼ぶわけですか。』骨の浮き出た竹帚で少し薄汚れた磨硝子を右へ掃き去った。赤いその色は等しいがこの百七十二度を秋とは呼べない。『なるほど雨が降っているのですか。』夜に鍵をかけた。」
⑦話の順番や文章の細かいニュアンス、使用する助詞をやりたい放題書き換える。
最後に日本語のルールも無視しましょう。やりました、これで完全にKOです。
> 「『では彼はこちらを夢と呼ぶわけですか。』華氏九十度、背筋とは蠅の蠢くものらしく。薄汚れた磨硝子を骨の浮き出た竹帚が右へ掃き去った。赤、またはその色は等しくともこの百七十二度を秋とは呼べない。『なるほど雨が降っているのですか。』ただ夜には鍵がかかっていた。」
これで完成です。ただの日記のような文章から奇怪な文章が書くことができました。
最後に
最後までお読みいただきありがとうございます。ぜひ皆さんもこのブログを参考にして奇怪な文章をいっぱい書いてSNSなどに投稿しましょう!またデジクリのサークルメンバーの方々は、コメントフォームから奇怪な文章をいっぱい送っていただけると嬉しいです!